情報銀行とは?メリットやビジネスモデル、企業事例を紹介

情報銀行とは?

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情報銀行

昨今、データを利活用した新たなビジネスとして注目を浴びているのが、「情報銀行」です。

 

情報銀行とは、ユーザーが登録したパーソナルデータ(名前、住所、購買履歴などの個人情報)を預託し、そのデータを活用したい企業に提供もしくは自社で活用する事業を指します。


2018年に発表された、総務省経済産業省の「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」では、情報銀行とは以下のように定義されています。

 

「個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS(Personal Data Store)などのシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示またはあらかじめ指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業」

 

簡単に言えば、パーソナルデータを預かり、データを利用したい企業に提供したりするデータの銀行のようなものです。

 

企業は情報銀行にあるデータに基づいた顧客分析や、情報銀行を通じた直接的な販促活動が行えます。

 

一方、ユーザー側は、情報銀行にデータを預けることで、割引クーポンやポイントが付与されるなどのメリットがあります。

 

 

そもそも、パーソナルデータを企業が管理する従来の「CMS」とは異なり、情報銀行に登録したデータは、ユーザーが管理することができ、データ提供などはユーザーが同意することが前提であることや、データの即時削除などが可能となっています。

 

このデータの管理主体の大きな変化には、ヨーロッパのGDPRなどプライバシー保護の風潮が背景にあります。

 

 

 

今回は、日本企業ですでに実施されている、情報銀行の実証実験やサービスなどの事例をご紹介していきます。

 

【解説】情報銀行のビジネスモデルとは

 

情報銀行の由来と背景

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AI、IoT 時代におけるデータ活用ワーキンググループ 中間とりまとめ

情報銀行」という言葉は、2017年に公表された内閣官房IT総合戦略室が発表した「AI、IoT時代のデータ活用ワーキンググループ 中間とりまとめ」において、「(中略パーソナルデータを含めた多種多様かつ大量のデータの円滑な流通を実現するためには、個人の関与の下でデータ流通・活用を進める仕組みる PDS情報銀行、データ取引市場が有効」との記述で正式に公表されました。

 

情報銀行が誕生した背景には、政府が推し進める社会的なデータの利活用がありますが、GDPR制定などヨーロッパを中心としたプライバシー保護の風潮が高まっていることも、情報銀行提言の後押しにもなっているように見えます。

 

先に結論から言えば、情報銀行のポイントは、「これまで企業が持っていたデータの所有権を、ユーザー本人にした(返した)ということ」です。

 

CRMに代表されるように、これまで企業が保有するデータは、ユーザーデータがユーザーの意思に関係なく、様々な企業に、収集・利用・販売されてきました。しかし、この状態では自分のデータがどのように利用されているかが不透明でした。さらに、データ削除には紙の書類による申請が必要など、データ削除にも高いハードルがありました。

 

これらのプライバシーの課題に対処するために、2018年にEUで制定されたGDPRでは、例えばユーザーが企業側にデータ削除を依頼した場合、72時間以内に削除することを義務付けています。

 

GDPRの主な変更点をまとめてみると、

 

・ユーザーデータ履歴のデジタル閲覧の義務化

・ユーザーデータ利活用の履歴開示の義務化

・削除依頼があった場合のユーザーデータの即時削除

 

などです。つまり、GDPRが目指したのは、企業が持つデータの所有権を本人に返すということです。

 

しかし、企業側にデータがある限りは、企業がユーザーデータを収集・利用・販売するできる状態にあります。

 

そこで「ユーザーデータの収集・利用・販売の可否をユーザー本人に委ねる」という考えが生まれ、情報銀行はまさにユーザーデータの所有権をユーザー本人にしたサービスなのです。

情報銀行のビジネスモデル

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情報銀行_ビジネスモデル

情報銀行のビジネスモデルは、主に以下の2つです。

 

情報銀行を運営する「運営型」

情報銀行のプラットフォームを提供する「プラットフォーム型」

 

現在最も多いなビジネスモデルは情報銀行を運営する「運営型」です。

 

これは、ある企業が運営する情報銀行を活用して、プロモ活動をしたい企業が、システム利用料や、CV率に応じた成果報酬額を支払う体系です。

 

情報銀行を運営する企業は、システム利用料というストック型収益にのみならず、CV率に応じたフロー型収益も期待できます。

 

また、情報銀行は企業のプロモ活動だけでなく、本人証明やデータ真贋性にも利用される可能性があります。そのため、情報銀行に登録したデータを用いて本人証明を実施するサービスの提供企業に対し、情報銀行の利用料を徴収できます。

 

【解説】情報銀行のビジネスモデルとは

 

情報銀行のメリット

情報銀行のメリットは、企業とユーザー両方に存在します。

 

■企業のメリット

①販促費を削減できる

②R&Dに活用できる

③自社商品に興味がありそうなユーザー分析ができる

 

「①販促費を削減できる」は、情報銀行内にあるユーザーデータから抽出した、企業の商品に興味がありそうなユーザーにピンポイントで商品オファーをすることができるからです。

 

情報銀行にあるユーザーデータには、ユーザーの属性や回答したアンケート結果が蓄積されており、自社の商品にマッチしそうなユーザーが抽出できます。

 

つまり、企業が商品を売りたいユーザーに直接アプローチできることによって、無駄な販促費を抑え、効率的なコンバージョンを達成することが可能となります。

 

また「②R&Dに活用できる」は、情報銀行にあるユーザーデータから、新商品に興味がありそうなユーザーに対し、新商品のテスターになってもらい、フィードバックを収集できます。これにより、よりユーザーニーズを反映した商品の開発を実現することができます。

 

「③自社商品に興味がありそうなユーザー分析ができる」は、自社もしくは他社が運営する情報銀行から、自社商品に興味がありそうなユーザーデータを獲得することで、ユーザー分析を行うことができます。

■ユーザーのメリット

①商品を安く買うことができる

②ポイントを商品と交換できる

③自分のデータを管理できる

 

「①商品を安く買うことができる」は、アプリを利用するユーザーには、企業から割引価格の特別クーポンが届くため、通常よりも安く商品を購入できます。

 

「②新商品を先駆けて体験できる」は、企業から来た特別オファーによって、新商品を先駆けて試すことが可能です。

 

「③自分のデータを管理できる」は、情報銀行に登録したパーソナルデータを、自由に管理することができることです。そもそも、情報銀行が設立された背景には、企業が顧客のデータを勝手に販売したり、販促活動に利用しているという課題がありました。一方、情報銀行は、データの在り方を見直し、データの管理をユーザー本人に回帰するというアプローチをとっています。

 

そのため、ユーザーの同意がなければ企業は情報銀行内のデータを閲覧することや、販売することができません。また、ユーザーも自分の情報にいつでもアクセス可能となり、変更や削除も自由に行うことができます。

 

情報銀行を実施中の企業

実証実験も含めて、現在情報銀行サービスを実施・検討している企業は、以下の企業です(2021年5月現在)

 

三菱UFJ信託銀行

三井住友銀行/日本総合研究所

・マイデータ・インテリジェンス(MDI)

フェリカ・ポケットマーケティング

・J.Score

サイバーエージェント

スカパーJSAT

・DataSign

JTB

大日本印刷DNP

NTTデータ

富士通

 

各企業の詳しい事例は、下記記事をご覧ください。

 

【まとめ】情報銀行の企業事例や実証実験まとめ

リリース済みの情報銀行のサービス(toC

情報銀行は、IT連盟が実施する審査による、情報銀行運営の認定制度が存在します。

 

ところが、実はその認定が無くても、情報銀行サービスを提供することが可能です。

 

例えば、すでにリリースされているtoC向けの情報銀行サービスは、以下の2つです。

 

・「dprime」:三菱UFJ信託銀行

・「MEY」:電通テックと○○の合弁企業

Dprime

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三菱UFJ信託銀行_Dprime

dprime」は、三菱UFJ信託銀行が運営しており、行動履歴や資産状況、その他属性データを登録すると、データを見たい企業からのオファーに応じると、ユーザーは企業からのギフト(For You)を受け取れます。

 

MEY

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マイデータ・インテリジェンス_MEY

MEY 」は大手広告会社電通グループの株式会社電通テック電通国際情報サービスによる合弁会社である「株式会社マイデータ・インテリジェンス」が運営する情報銀行サービスです。

 

プロフィールの登録や、生活や趣味についての質問「データコレクション」への回答登録、画像投稿やアンケート回答、データ提供リクエストへの参加などを通じ、アプリ内にポイントが貯まり、グッズと交換が可能です。

 

また、企業からの特別オファーやおススメサービスのリコメンドも受け取ることもできます。

 

情報銀行の今後

情報銀行は新たなデータ利活用のビジネスとして今後の様々な企業が参入を表明する可能性があるでしょう。

 

一方、集めたデータをどう管理するのかや、どうやって活用するのかなど、データ利活用に特有の問題は残り続けます。

 

そのため、今後は情報銀行のシステムを運営する企業と、情報銀行のデータ加工などを手掛ける企業、それらを利用して販促活動を行う企業といった棲み分けがされていくと思われます。

 

【参考】情報銀行関連の書籍

最後に、本記事の作成で参考になった情報銀行関連の記事をご紹介します。

 

・『情報銀行参入ビジネスガイド 利活用ビジネスから事業参入まで』:森田弘昭著

・『MyDataエコノミー』:佐々木隆仁、春山洋、志田大輔著

・『情報銀行のすべて』:花谷昌弘、前田幸枝著