情報銀行の企業事例や実証実験まとめ

情報銀行とは

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「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」より引用

情報銀行とは、ユーザーが登録したパーソナルデータ(名前、住所、購買履歴などの個人情報)を預託し、そのデータを活用したい企業に提供もしくは自社で活用する事業を指します。


2018年に発表された、総務省経済産業省の「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」では、情報銀行とは以下のように定義されています。

 

「個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS(Personal Data Store)などのシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示またはあらかじめ指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業」

 

簡単に言えば、パーソナルデータを預かり、データを利用したい企業に提供したりするデータの銀行のようなものです。

 

ユーザー側は、情報銀行にデータを預けることで、割引クーポンやポイントが付与されるなどのメリットがあります。

 

 

 

 

 

今回は、日本企業ですでに実施されている、情報銀行の実証実験やサービスなどの事例をご紹介していきます。

 

【解説】情報銀行のビジネスモデルとは

 

maguro-multitask.hatenablog.com

 

【まとめ】情報銀行の企業事例や実証実験

ここでは、以下の企業の情報銀行の事例をご紹介していきます。

 

三菱UFJ信託銀行

三井住友銀行/日本総合研究所

・マイデータ・インテリジェンス(MDI)

フェリカ・ポケットマーケティング

・J.Score

サイバーエージェント

スカパーJSAT

・DataSign

JTB

大日本印刷DNP

NTTデータ

富士通

 

三菱UFJ信託銀行

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Dprime

 

三菱UFJ信託銀行は、2020年より情報銀行アプリ「Dprime」をリリースしました。

 

「Dprime」では、生活や趣味、資産状況や行動履歴をアプリに預けると、あなたのデータに興味を持った企業からオファーが届きます。

 

オファーに応じると、企業にデータが公開される一方、対価として特別クーポンや電子マネーが付与されたり、オファー企業が提供するサービスを格安で受けられます。

 

【例】オファーとギフト

オファー:

コロナの影響でリモートワークを開始したユーザーに対し、旅行会社がオファー

 

ギフト:

ユーザーに最適なワ―ケーションの体験プラン

 

三井住友銀行/日本総合研究所

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SMBCグループにおけるデータ利活用と情報銀行への取り組み

2018年に三井住友銀行日本総合研究所は、大阪大病院と共に、情報銀行にかかる実証事業を受託し、事業化へ向けた実証を開始しています。

 

この実証実験のポイントは、

①医療データを個人に返すことにより、

②個人の意思に基づく医療データの共有を可能とし、医療サービスの質と効率性を向上させること、

③個人が自らの意思でデータを利活用し便益を得ること、

が挙げられています。

 

具体的な事業内容としては、

・個人情報に当たる医療データを取り扱う際の、法務面やシステム面、ユーザー面、さらにビジネスモデル面について、情報銀行が要件を整理

・スムーズな医療データのデジタル化や、安全にPDSに保管する機能の提供

PDSにあるデータの医療面での活用に対するユーザーへの対価

などを検討しています。

 

マイデータ・インテリジェンス(MDI)

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MEY

マイデータ・インテリジェンス(以下、MDI)は、電通のグループ企業として2018年に設立された、データの利活用事業を中心に手掛ける企業です。

 

2019年には、情報銀行サービスのマイデータ・バンク「MEY」をリリースし、C向けの情報銀行サービスの先駆け的存在でもあります。サービス開始から、1ヶ月ですでに5万人のユーザー獲得に成功しています。

 

「MEY」では、ユーザーがパーソナルデータを登録するか、日常生活の写真の投稿など特定のアクションを達成すると、MEYポイントが付与され、貯まったMEYポイントは、グッズや、QUOカードPayなどのデジタルギフトと交換することができます。 

 

フェリカ・ポケットマーケティング

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ワタシポスト

フェリカ・ポケットマーケティングは、Suicaにも利用されている「Felicaフェリカ)」などのICTを活用し、地域活性化ソリューションを提供している企業です。

 

例えば、2021年2月には神奈川県と提携し、情報銀行アプリ「ワタシポスト」をリリースしています。

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ワタシポストアプリ

まずユーザーは「ワタシポスト」内にある「ワタシライブラリ/ワタシコンタクト」に、パーソナルデータを登録します。預けた情報の開示可否は、カテゴリー別に全てユーザー側が決定します。開示に同意すると、地域の企業や店舗などから、お知らせやクーポン、アンケート、さらに広告などが配信されます。

 

さらに、QRコードでポイントの受け取りが可能であり、イベント等でポイントを付与しされていきます。貯まったポイントは、電子マネーWAON」が当たる抽選参加などに使えます。

 

さらに、「ワタシSDGs」として、日々のSDGs(持続可能な開発目標)に関する行動をセルフチェックすると、1日1回ポイントが貯まります。

J.Score

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J.Score情報銀行認定事業者 としての取組について

J.Scoreは、みずほ銀行ソフトバンクのジョイントベンチャーとして2016年に設立された企業です。主にAIによるスコアレンディング事業を手掛けています。

 

2019年には、情報銀行のサービスを提供する段階にあると認定される「P認定」を、情報銀行の認定を付与する日本IT団体連盟より受けました。

 

現時点でJ.Scoreは、「個人のライフスタイルの充実と成長を後押しし、それを応援する企業をサポート」というデータビジネスの在り方を示しており、それらを新たな「情報提供サービス(仮称)」で実現するようです。

 

 

サイバーエージェント

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サイバーエージェント_データフォワード

2019年、サイバーエージェントのアドテクノロジー分野を担うアドテクスタジオは、ユーザー個人が自分の意思でパーソナルデータを、様々な価値に変えることができるデータ流通プラットフォーム「Data Forward(以下、データフォワード)」を発表しました。

 

データフォワードは、パーソナルデータをユーザー自身で管理・価値交換できる、ブロックチェーン技術を活用したデータ流通プラットフォームです。

 

具体的には、ユーザーがパーソナルデータの提供先を常に把握できることや、データはギフトカードなどに交換可能なポイントに交換可能などのメリットがあります。

スカパーJSAT

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スカパー!情報銀行

スカパーJSATは、情報銀行の実証実験として「スカパー!情報銀行」実施しました。

 

スカパー!情報銀行」は、2500人のスカパー! 契約者のパーソナルデータを活用し、参加者が開示許諾した契約/視聴状況、アンケート、購買履歴などをもとに、スカパー!の番組情報や、データ活用企業の広告・サービスを提供するものです。

 

データを開示した参加モニターには、情報開示と引き換えにスカパー!視聴料が割引されるというメリットがありました。

 

DataSign

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paspit

DataSignは、楽天AmazonなどのECサイトのログイン情報を記録するアプリ「paspit」を運営しています。

 

「paspit」にログイン情報を登録しておけば、ECサイトなどのログインがスムーズになることに加え、ログイン情報忘れなどを防ぐことができます。

 

ちなみに、paspitは、総務省が定める情報銀行の認定制度において、日本初の通常認定を受けています。

 

この「paspit」は、他の情報銀行サービスと同様に、企業からのオファーに対し、情報開示に同意することで、企業がアプリ内のデータを閲覧することができます。

 

またDataSign社は、情報銀サービスを運営したい企業に、「paspit」のシステムを提供するなどしています(上述の「スカパー!情報銀行」は、このpaspitを利用)。通常は数千万かかる情報銀行のシステム構築が、paspitのシステムを利用すれば、約50万円程度で済むようです。

JTB

 

JTB大日本印刷(以下、DNP)と、2018年12月にパーソナルデータを情報銀行で集約・活用する「次世代トラベルエージェントサービス」を共同で開発し、東京の上野エリアと京都の岡崎・蹴上及び周辺エリアでの実証事業を実施しました。

 

「次世代トラベルエージェントサービス」の実証実験では、東京・上野の商店街で、スマホアプリを通じて回答してもらったアンケートを参加店舗に送信し、自分のお店の興味がありそうなユーザーに、店側からリアルタイムでオファーを送るというものです。

 

リアルタイムにユーザーに情報送信できることが強みですが、店舗側がITサービスに不慣れな点や、アプリのUI/UXの点でも課題が残ったようです。

 

両社は2017年に、すでに「京都まちぐるみコンシェルジュサービス実証」として、共同で情報銀行の実証実験を実施しました。DNPが持つ書店向けの会員サービス「honto」のユーザーデータから最適な旅行プランを提供するという実証実験で、概ね良好な反応があったようです。

 

大日本印刷DNP

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地域型情報銀行

大日本印刷(以下、DNP)は、VRM(Vender Relationship Management)を通じ、情報銀行のプラットフォームを提供し始めています。

 

VRMは、CRMと対置に置かれ、ユーザー情報を企業が管理するのではなく、ユーザー自身がデータを管理するためのプラットフォームであり、まさに情報銀行のポイントを体現した概念です。

 

 

例えばDNPは、中部電力と愛知県豊田市、さらに地元企業3社の共同で、特定地域に特化した「地域型情報銀行」サービスの実証実験を実施しています。

 

これは、中部電力の家庭向けWebサービスカテエネ」の電力使用量のデータや、パーソナルデータ、さらに家庭に設置された体組成計などのデータを、ユーザーの同意のもと、地元のスーパーやショッピングセンターなどの事業者に提供します。

 

各事業者は、体組成計のデータから健康課題などを分析し、課題解決のための食品などを提案します。また、山間部などに住む高齢者に食品を届けるなどのサービスも実現しています。

 

さらにDNPは、電通グループのマイデータ・インテリジェンスとともに「ヘルスケア型情報銀行のビジネスモデルの構築と普及促進」の実証実験や、富士通とパーソルキャリアと共同で「副業マッチングサービス(後述)」の実証実験を行うことも発表しています。

 

NTTデータ

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NTTデータ_実証実験

NTTデータは、情報銀行システムのインフラ構築に注目しており、様々な企業との共同実験を実施しています。例えば、先ほどの三菱UFJ信託銀行の「Ⅾprime」のシステム構築をNTTデータが手掛けています。

 

また、2019年2月には、東京海上日動火災保険など複数企業と共同で、情報銀行の要となるパーソナルデータの独自の実証実験も実施しています。これは、Webで集まった参加モニターにパーソナルデータを預託してもらい、企業への開示許諾をユーザーが承認すれば、企業にデータが提供されるというものです。

 

注目すべきは、最初に預託されたパーソナルデータは、そのまま情報銀行に登録されるのではなく、一度モニターに返却され、その後改めてモニターのデータ登録で情報銀行に登録されるというスキームを取ったことです。

 

このスキームの目的の1つ目は、ユーザーに自身のデータ運用が企業ではなく、自身にあることを体験してもらうことであり、2つ目は企業側からすると情報銀行にデータを渡していないので(ユーザーが自分で登録しているので)、第3者提供に当たらず、トレーサビリティなどの管理をせずに済むというメリットがあることです。

 

 

 

富士通

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富士通_実証実験

富士通は2017年にイオンフィナンシャルサービスなどの企業と合同で、日本初の情報銀行の実証実験を行っています。

 

この実証実験では、富士通社員500人がパーソナルデータを情報銀行に預託し、同意に基づきデータを参加企業に提供する一方、インセンティブとして本社オフィスの近隣店舗で利用可能なクーポンと交換できる「FUJITSUコイン」を付与しました。

 

他にも富士通は、以下のような実証実験やサービス提供を実施しています。

 

タイムフィリング(電通と共同):

GoogleカレンダーPDSに登録すると、カレンダーの空き時間を有意義に過ごすサービスを提携事業者がリコメンドしてくれます。このサービスは実際に、三菱地所との共同プロジェクト「丸の内データコンソーシアム」に採用され、丸の内のビジネスパーソンの空き時間に個人の趣味・嗜好にあった丸の内イベントを紹介する「スケジュールマッチングサービス」に応用されています。

 

副業マッチングサービス(DNP、パーソルキャリアと共同):

情報銀行を利用した「副業マッチングサービス」は、副業をしたいビジネスパーソンと、副業を受け入れ可能な企業をマッチングするサービスです。これは自分のスキルを情報銀行に登録すると、興味を持った企業からオファーが来て、最適なマッチングを目指す一方、副業を探している人のスキルを証明することにもつながります。

 

ブロックチェーンを使用したプラットフォーム機能:

富士通が持つPDSサービスとブロックチェーンサービスを組み合わせた情報銀行のプラットフォームサービスです。情報銀行にとって重要なデータ提供などの「同意の取得」の部分に、ブロックチェーン技術を取り入れることで、同意に関する情報を安全に記録することが可能となります。

 

参考文献

最後に、今回の事例集をまとめるにあたって参考になった書籍をご紹介します。

 

・『情報銀行参入ビジネスガイド 利活用ビジネスから事業参入まで』:森田弘昭著

・『MyDataエコノミー』:佐々木隆仁、春山洋、志田大輔著

・『情報銀行のすべて』:花谷昌弘、前田幸枝著